【健康診断】

1 特殊健康診断と一般健康診断

(1)特殊健康診断

特殊健康診断とは、法定の有害業務に従事する労働者が受ける健康診断です。

特殊健康診断については労働安全衛生法第66条等にて定められており、健診を実施しなければならないとされている業務は次の通りです。

・屋内作業場等における有機溶剤業務に常時従事する労働者 (有機則第29条)

・鉛業務に常時従事する労働者 (鉛則第53条)

・四アルキル鉛等業務に常時従事する労働者 (四アルキル鉛則第22条)

・特定化学物質を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者及び過去に従事した在籍労働者(一部の物質に係る業務に限 る)(特化則第39条)

・高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者 (高圧則第38条)

・放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者 (電離則第56条)

・除染等業務に常時従事する除染等業務従事者 (除染則第20条)

・石綿等の取扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者及び過去に従事したことのある在籍 労働者 (石綿則第40条)

(2)一般健康診断

一般健康診断とは職種に関係なく実施する健康診断で、すべての企業・労働者が対象になります。

雇い入れ時の健診や、1年以内ごとに1回実施する定期健診のほか、海外に6カ月以上派遣する労働者を対象とした健診や、給食従業員の検便なども含まれます。

健康診断の種類には、主に次の5つがあります。

・雇入時の健康診断

・定期健康診断

・特定業務従事者の健康診断

・海外派遣労働者の健康診断

・給食従業員の検便

(3)費用負担

健康診断の実施は、安全衛生法で義務とされているので、費用は会社が負担します。ただし、法定検査項目以外の項目については、会社の負担は義務ではありません。

(4)健康診断受診時の賃金

一般健康診断を所定の労働時間中に受診しても必ずしも労働時間にすべきということにはなっていませんが、スムーズに受診させるためには労働時間として扱って賃金を支払うのが好ましいと考えられます。

特殊健康診断を受診している時間については、労働時間となり賃金の支払いが必要です。

(5)健康診断の受診を拒否する従業員への対応

従業員には受診義務があります。そのため、受信を拒否する従業員には受診の督促、従業員の弁明の聴取、懲戒の説明や予告などを行い、それでも従わない場合は、懲戒処分の検討をすることになります。

就業規則には、健康診断の対象者、受診義務、受信拒否の場合に懲戒処分の対象となること、受信時の労働時間の取り扱い、費用負担などについて規定しておいたほうがよいでしょう。

(6)パート、アルバイトの健康診断

パート、アルバイトについても下記の場合は、健康診断の実施が必要となります。

・1年以上の長期雇用を行なって(予定して)いる者

・労働時間が通常の従業員の4分の3以上である者

ただし、特定業務または有害業務を行う労働者などの場合は、上記以外も健康診断の受診が必要となるケースもあります。

(7)健康診断実施後の取り組み

事業者は、労働者の健康診断の結果を記録し、診断結果に応じて以下の措置を講じる必要があります。

ア 診断結果の記録

 健康診断の結果を受け取ったら、健康診断個人票を作成します。この健康診断個人票は、健康診断ごとに定められている期間中、保存する義務があります。

イ 診断結果についての医師等からの意見聴取

 健康診断の結果で「異常の所見」がある労働者がいる場合、健康保持のために必要な措置について、医師のアドバイスを聞く必要があります。

ウ 健康診断実施後の措置

 「異常の所見」がある労働者に対し、診断結果と医師の意見から必要だと判断される場合は、労働時間の短縮や作業の変更など、適切な措置を講じる必要があります。

エ 診断結果の労働者への通知

 健康診断の結果は、労働者に通知する義務があります。

カ 診断結果に基づく保健指導

 健康診断の結果、健康保持が必要な労働者に対して、医師や保健師から保健指導を受けるよう、指導する必要があります。

キ 診断結果の所轄労働基準監督署長への報告

 「定期健康診断」を実施後、結果を遅滞なく所轄の労働基準監督署長へ提出する義務があります。

 健康診断の結果、要再検査や精密検査となった場合、健康診断の結果を会社が知っておきながら、業務災害を誘発した場合、事業主は損害賠償責任を負う可能性も出てきますので、就業規則に規定し、遵守しましょう。

【休職制度】

1 休職制度

休職とは、従業員が会社から許可を得て、自分の都合により長期的に労働を免除してもらう制度のことです。期間や休職中の条件は会社によって異なります。

主な休職の種類としては、プライベートでのケガや病気で働けない場合の休職、他社に出向する場合の休職、労働組合に専従する場合の休職などがあります。

休職については、労働基準法などに定義がありません。会社が独自に制度を構築し、就業規則などで定めるのが一般的です。

2 休職制度で定めるべきルール

(1)休職期間の設定

健康保険の傷病手当金は、1年6か月間受給できますが、長期間、人員が欠員となると他の従業員の負担が大きくなるので、影響のない期間で設定しましょう。3~6か月程度が好ましいと思われます。また、勤続年数に応じて休職期間に差を設けるという方法も考えられます。

(2)休職期間の通算限度

うつ病による休職の場合、再発する可能性が高いので、休職期間の長期化に備えるため休職期間の通算限度を設定しましょう。

(3)休職期間中の給与・社会保険の取り扱い

休職期間中は、労務の提供がない状態であるため、ノーワークのーノーペイの原則により、賃金の支払いは不要となります。その代わり健康保険の傷病手当金の受給を受けることができます。

賃金の支払いが不要でも、休職期間中の健康保険料、厚生年金保険料、住民税などは発生します。

また、賞与の算定期間を設けている場合に、その期間に休職期間があった際の取り扱いや、定期昇給時期を就業規則に記載している場合は、その時期に休職期間中の従業員がいた際に、どのような取り扱いをするのかルールをつくり就業規則に定めておきましょう。

(4)症状の報告義務・受診義務

メンタル不全で休職する場合、できれば主治医に休職期間を確認し、休職開始後は、1~3か月を目安に、症状や治療状況、復職への見通しなどについて報告を受けるようにしておくことをお勧めします。

また、必要に応じて会社が指定する医師の診断を受けることを就業規則に定めておくこともお勧めします。

(5)復職基準

休職期間内に休職事由が消滅したと本人から申し出があった場合、会社はその従業員を復職させるかどかを検討し判断することになりますが、復職基準が明確でないまま復職を認めなかったら、後々トラブルになる可能性があるので、復職基準を明確にして就業規則に定めておきましょう。

復職基準は、主に①休職前と同じ業務ができるかどうか。②休職前の業務よりも軽度なリハビリ業務ができるかどうか。がありますが、なるべく雇用を維持するという観点から②の基準にすることをお勧めします。

(6)休職満了日の対応

休職満了日が近づいてきたら、通常、主治医の診断書を提出してもらいますが、主治医は従業員の業務内容については詳細に把握していないものと思われます。そのような点を改善するため、復職するに際して、会社が主治医に直接意見聴取する旨を就業規則に記載しておくことをお勧めします。

また、従業員が休職に入る前に会社が主治医に直接意見聴取する旨を記載した誓約書を事前に取り付けておいた方がよいでしょう。

(7)リハビリ出勤制度

リハビリ勤務(試し勤務)制度を設けることは義務ではありませんが、設ける場合は、休職期間中に行うのか、どのような作業、業務を行わせるのかについて労使双方で合意していた方がよいでしょう。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、試し出勤制度等の例として以下の3つが挙げられています。

  • 模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
  • 通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に   

帰宅する。

  • 試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

※これらの制度の導入にあたっては、処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等についてあらかじめ労使間で十分に検討し、ルールを定めておきましょう。

なお、作業について使用者が指示を与えたり、作業内容が業務(職務)に当たる場合などには、労働基準法等が適用される場合がある(災害が発生した場合は労災保険給付が支給される場合がある)ことや賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意する必要があります。